About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1959
Material: Oak / Teak / Walnut / Rosewood(Seat: Paper cord or Leather)
Size: W50 × D50 × H77 × SH45 cm
Story
No.77は、デザイナーであり熟練の指物師でもあったニールス・オットー・モラーが到達した、軽やかさと強度、そして上品さの均衡を体現する一脚です。装飾性を抑え、木部のラインとプロポーションで魅せる設計は、食卓まわりに求められる「取り回しの良さ」と「視覚的な静けさ」を同時に満たします。
背もたれの笠木は無垢材から精密に削り出され、後脚へと自然に流れる連続線を描きます。手で触れるとわずかに丸みを帯びたエッジが感じられ、背中にはやさしく沿う曲率が与えられています。木目方向の見極めや蒸気曲げ・削り出しの組み合わせといった工芸的配慮が、視覚的な軽快さと安心感のある掛け心地を両立させています。
脚まわりに貫を設けない構造は、No.77の大きな特徴です。座枠と脚の接合部には高精度のホゾやダボが用いられ、ねじれや荷重に耐えるための断面設計と接着技術が徹底されています。結果として、床まわりの視界はすっきりと保たれ、椅子全体のシルエットはより軽やかに見えます。細く絞られた脚部のプロポーションも、この意図を端的に物語ります。
座面は伝統的なペーパーコード張り、あるいはレザー張りの選択が可能です。ペーパーコードは長い一本のコードを手作業で緻密に編み上げるため、適度な弾性と通気性を備え、使い込むほどに表情を深めます。レザー張りでは木部の精緻な面と陰影がより強調され、食卓空間に落ち着いた重心を与えます。いずれの仕様でも、素材の選定から最終研磨に至るまで手仕事の工程が貫かれ、触れた際の滑らかさと光の受け方に、工房の仕事の確かさが現れます。
オーク、チーク、ウォルナット、ローズウッドといった硬質材の選択肢は、各樹種の導管や油分、色調の違いをそのまま意匠として活かす考えに基づきます。木肌の密度や収縮率への理解が、長年の使用に耐える安定性と上品な経年変化を導きます。素材・接合・仕上げの三位一体で成立するNo.77は、日常の食卓に置いたとき初めて完成する道具でありながら、静かな彫刻作品のような気配を湛えます。
J.L. モラーの製造姿勢は、分業の効率よりも品質の一貫性を重視します。最終研磨まで手で仕上げる方針は、機械研磨では得にくい面の柔らかさと奥行きをもたらし、シンプルな造形に豊かな陰影を与えます。No.77は、構造を洗練させることで形を極限まで純化し、結果として時代や内装スタイルを越えて調和する「タイムレス」という言葉を、静かに証明し続けるダイニングチェアです。