About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møllers Møbelfabrik(J.L.モラー)
Year: 1952
Material: Teak / Walnut
Size: W80 × D46 × H60 cm
Story
No. 44 ティー・トロリーは、ニールス・オットー・モラーが1952年にデザインし、彼自身が設立したJ.L.モラー家具製作所によって製造された作品です。無駄を削ぎ落とした構成と、有機的な曲線が融合するその造形は、デンマーク・モダニズムの美学と職人技の結晶といえます。
モラーは家具職人としての修業を経てデザイン教育を受けた、極めて実践的なデザイナーでした。その経験に基づき、彼は素材の特性や木の動きを深く理解しながら、接合技術に最大の注意を払いました。No. 44にもその精神が顕著に表れています。繊細な脚部とハンドルは無垢材を一体で削り出し、棚板は手作業で仕上げたベニヤによって軽量化と平面安定性を両立させています。
初期のチーク材モデル(1952年頃)はやや大きめで、温かみのある黄金色の木肌を特徴とし、1959年以降はウォールナット材を用いた改良型が登場しました。ウォールナットは落ち着いた色調と緻密な木目によって、より洗練された印象を与えています。キャスター部分にはクローム仕上げの金属が採用され、軽快な移動と現代的な印象を両立しています。
No. 44の魅力は、家庭内のサービス家具という実用的性格を超えて、建築的な構造美を備えている点にあります。機能と造形の調和、そして素材への深い理解が、見た目の軽やかさと耐久性を両立させています。華美な装飾を排しながらも、細部の仕上げや手触りには職人の詩的な感性が宿っています。
J.L.モラー家具製作所は現在もデンマーク国内で生産を続けており、創業者モラーの哲学を継承しています。No. 44 ティー・トロリーは、単なる道具ではなく、クラフトマンシップの倫理と北欧デザインの理想を体現する、時代を超えた機能的彫刻といえるでしょう。