About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller(J.L.モラー)
Year: 1959
Material: Oak, Teak, Walnut, Rosewood, Paper Cord
Size: W55 × D50 × H77 × SH44 × AH68 cm
Story
Model 57 アームチェアは、1959年にニールス・オットー・モラーによってデザインされ、デンマーク家具史における代表的な作品として知られています。彼は指物職人としての高度な技術を背景に、構造美と手触りの調和を追求しました。この椅子は、同時期に発表されたアームレスモデル77と対を成す存在であり、モラーのデザイン哲学の集大成とされています。
木部は装飾性を排し、部材を極限まで細く仕上げながらも高い強度を実現しています。後脚からアームへと連続する流線形のシルエットは、機械的な合理性ではなく、人間工学と木の性質への理解によって導かれたものです。職人による伝統的なほぞ継ぎやフィンガージョイントを用いた構造は、金属や合成材を一切排した純粋な木工技術の成果といえます。
座面には天然のペーパーコードが用いられ、約130メートルもの一本のコードを職人が手織りで仕上げます。継ぎ目を設けないこの織り方は、耐久性と均一な張力を生み、時間とともに柔らかな経年変化を楽しむことができます。現行モデルでは、オーク、ウォールナット、チークなどの持続可能な木材が使用され、仕上げもオイルやソープなど多様に展開されています。
製造元であるJ.L.モラー社は、1944年にオーフス近郊で創業して以来、現在も同地で生産を続ける希少なデンマークメーカーです。工業化や海外移転が進む中で、「Made in Denmark」を守り抜くその姿勢は、モラーの哲学に通じる純粋性の象徴です。デザイナーが製造工程を機械に委ねず、職人に全面的な信頼を置いたことで、この椅子は芸術的な完成度を得ています。
創業者の没後も、家族経営の体制が受け継がれ、娘キーステン・モラーが経営を担う現在もなお、Model 57は同社の中心的なプロダクトとして生産が続けられています。60年以上を経た今日においても、その洗練されたフォルムと触感は、デンマークデザインの理想を体現する存在として高く評価されています。