Model 62 Armchair | アームチェア


About

Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1962
Material: Teak or Oak; Paper cord or leather (seat)
Size: W × D × H × SH cm


Story

Model 62は、J.L.モラーの椅子群の中でも最も有機的で個性の強いシルエットを示す一脚です。背からアームへと連続する滑らかな曲線、脚の立ち上がりの繊細なプロポーション、そして全体を引き締める控えめな面取りが、視覚的な軽やかさと品格を同時に生み出します。背板の両端にわずかに角を立てたような造形は、身体をホールドしつつ椅子の表情を決める彫刻的要素として機能します。

本作の構造上の特長は、座面下の貫(ストレッチャー)をあえて排している点にあります。一般に横方向の剛性確保に寄与する部材を用いずに安定を得るには、無垢材の選別、含水率管理、繊維方向の読解、そして高精度の仕口加工が不可欠です。Model 62は、脚と座枠の接合部に高い面精度と適切な嵌合圧を確保することで、視覚的な清潔感と実用強度の両立を達成しています。結果として、空間に置いたときの“抜けの良さ”と、着座時の安心感が矛盾なく結び付いています。

素材はチーク(またはオーク)を中心に用いられ、表層の仕上げは木肌の触感を損なわない控えめなフィニッシュが選ばれます。座面は伝統的なペーパーコードの手編みによって、通気性と保持力を両立させています。コードのピッチやテンションは、長期使用を見越して微調整され、座骨の荷重分散と復元性がバランス良く設計されています。革張り仕様では、薄手でしなやかな革と下地の詰め物の組み合わせにより、体圧の当たりを滑らかに受け止めます。

J.L.モラーの生産体制は、機械加工で前工程の精度を高め、最終の削り出しや研磨、組み上げを熟練工の手に委ねる“分業一体”の思想で貫かれています。Model 62のように曲線と断面形状が複層的に絡み合う椅子では、型から上がった部材をただ組むのではなく、各部の面のつながりと触感を職人が最後まで追い込むことが完成度を左右します。そうした最終工程の積み重ねが、貫を持たない構造に必要な寸法精度と、触れた瞬間に伝わる品位を保証しています。

デザイナー本人が職人であり製造者でもあるというモラーの特異な立場は、設計段階から製法と素材の限界を織り込む開発プロセスを可能にしました。Model 62は、その統合的なアプローチが具体物として結晶化した好例です。視覚的な軽やかさ、実使用における安定と快適、そして経年変化が醸す質感の深化。これらが矛盾なく収れんすることで、ダイニングシーンにおいて長く信頼できる“基準器”のような存在感を放ち続けます。

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