About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1963
Material: Oak, Walnut, Teak, Beech, Danish Paper Cord
Size: W120 × D40 × H46 cm
Story
Model 63A ベンチは、デンマークの家具職人でありデザイナーのニールス・オットー・モラーによって1963年に設計された作品です。このモデルは、同年に発表されたModel 63シリーズの中間サイズとして登場し、ダイニングやリビングなど多用途な空間に対応するよう構想されました。モラーが生涯を通して追求した「機能性と職人技の融合」という理念を、極めて純粋な形で具現化した作品といえます。
モラーは建築的な理論よりも、キャビネットメーカーとしての経験を基盤に設計を行いました。そのためModel 63A ベンチの構造には、木材の性質を深く理解した上での合理性と、工学的な計算に基づく強度が融合しています。ストレッチャーを持たない軽やかな構造を維持しながらも、接合部の精密なホゾ組みにより高い耐久性を確保しており、視覚的な軽快さと構造的な堅牢性が完璧に両立しています。
座面には、デンマーク製のペーパーコード(Danish Cord)が手作業で張られています。約130メートルに及ぶ一本のコードを途切れなく織り込むことで、均一な張力と耐久性を実現し、接合部にはL字釘を用いた伝統的な技法が活かされています。この丹念な手作業によって、工業製品では到達し得ない柔らかさと強度の調和がもたらされています。
また、フレームに使用される木材は、オーク、チーク、ウォルナット、ブナなどの高級無垢材です。いずれも厳選された素材で、特にオーク材は南ドイツのシュペッサルト地方から長年にわたり安定供給されており、モラー工房の品質基準を象徴しています。仕上げにはソープ、オイル、ラッカー、スモークなど複数の方法が用意され、素材の自然な美しさを最大限に引き出します。
J.L.モラー社は創業以来、組み立てラインを持たない生産体制を維持しており、職人が木取りから最終研磨までを一貫して手作業で行います。Model 63A ベンチもその哲学のもとに製作され、工業化の流れに逆行する「手仕事による合理性」の象徴となっています。現在も創業者の家族によって経営が続けられ、デンマーク国内での一貫製造を貫くことで、モラーの「妥協なき品質」が現代にも受け継がれています。