Model 79 Dining Chair | ダイニングチェア


About

Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L.モラー)
Year: 1966
Material: Oak, Walnut, Teak, Rosewood, Danish Paper Cord
Size: W50 × D51 × H79 × SH44 cm


Story

Model 79 ダイニングチェアは、1966年にニールス・オットー・モラーが設計した作品です。彼が創設したJ.L.モラー工房が最も円熟していた時期に誕生した本作は、モラーの職人哲学を体現する代表作の一つとして位置づけられます。構造・素材・人間工学の全てが調和し、デンマークモダニズムの理念を最も端的に示す作品です。

モラーは1939年にキャビネットメーカーとしての修行を修了し、1944年にアーフスでJ.L.モラーズ・モーベルファブリックを設立しました。彼がデザイナーとメーカーの双方を兼ねていたことは、品質管理において極めて重要であり、設計段階から製造まで一貫して妥協のないものづくりを実現しています。

Model 79は、モラーが追求した「洗練された簡潔さ(Refined Simplicity)」を象徴しています。背もたれは軽快な格子状の構造で構成され、視覚的な軽さと快適性を兼ね備えています。座面の角度や背のカーブは人間工学的に緻密に設計されており、自然な姿勢を導く柔らかなフィット感を生み出しています。

構造面では、脚部の補強材(貫)を排した点が特筆されます。これは高度なほぞ継ぎとダボ継ぎによって脚部と座面レールを強固に接合することで、視覚的な軽やかさと剛性を両立させた設計です。機械的な要素を極限まで排し、木の力学的特性を最大限に引き出すというモラーの理念がここに具現化されています。

素材は時代によって異なり、1960年代のヴィンテージではブラジリアン・ローズウッドが用いられ、現行品ではオークやチーク、ウォルナットなどの持続可能な広葉樹が使用されています。座面は手作業によるデンマーク・ペーパーコード編みが特徴で、一本のコードを幾重にも編み込むことで、堅牢でありながら柔軟性をもつ構造を実現しています。

J.L.モラー工房は、今日に至るまで「アセンブリラインなき生産」を理念とし、各工程を専門の職人が手作業で行う体制を守り続けています。創業者の理念は三世代にわたり継承され、現在はキルステン・アン・モラーが経営を担い、伝統的技術と現代の精密加工を融合させた製造を続けています。

Model 79は、デンマーク家具におけるクラフトマンシップの象徴であり、モラーの完璧主義と倫理的製造思想の結晶といえる存在です。その静謐で均整の取れたフォルムは、今日においても新鮮な美しさを保ち続けています。

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