Salesco | サレスコ


Story

サレスコ協同組合(Salesco)は、1950年代のデンマーク・モダン黄金期において、ハンス・J・ウェグナーの国際的な成功を商業的に支えた販売共同体として設立されました。伝統的な指物師工房では世界市場の需要に応えきれないという課題に対し、複数の家具メーカーが協同で輸出・販売を行う仕組みを確立した点に、その革新性がありました。

デンマークでは農業協同組合が19世紀後半に成功を収めており、その理念が家具産業にも応用されました。サレスコは、個々の工房が培った職人技を維持しつつ、販売・物流・プロモーションを統一化することで、デンマーク家具を国際的ブランドへと押し上げました。

中心的な役割を担ったのは、Carl Hansen & Søn、Getama、A.P. Stolen、Ry Møbler、そしてAndreas Tuckの5社です。ウェグナーはそれぞれに異なるタイプの家具を設計し、サレスコがそれを統合して販売することで、多様な製品群を一貫した品質とブランドイメージのもとに発信しました。この連携は、デンマーク家具産業における“分業と統合”の理想形ともいえるものでした。

しかし、1960年代後半になると、商業的効率を優先するマネジメントと、創造的自律を重視するウェグナーとの対立が深まりました。1969年の決裂をもって協同組合は解体され、ウェグナーはPP Møblerをはじめとする独立系工房との協働へと舵を切ります。それでも、サレスコが築いた流通・販売基盤は、今日に至るまでデンマーク家具輸出モデルの原型として高く評価されています。


About

Year:1950年代〜1969年
President:Henning Foss-Pedersen(ヘニング・フォス=ペダーセン)
Designer:Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer:Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)Getama(ゲタマ)A.P. Stolen(エー・ピー・ストーレン)Ry Møbler(リュ・モブラー)Andreas Tuck(アンドレアス・タック)
Place:Copenhagen(コペンハーゲン)


History

1949:<a href=”https://denmark-design.com/hans-j-wegner/”>ハンス・J・ウェグナー</a>が<a href=”https://denmark-design.com/carl-hansen-son/”>Carl Hansen & Søn</a>と協業を開始し、CH24「ウィッシュボーンチェア」を発表。
1950:ウェグナーの作品がアメリカ市場で注目を集め、デンマーク家具輸出の拡大が始まる。
1951:ミラノ・トリエンナーレでウェグナー作品がグランプリを受賞し、国際的な名声を確立。
1952:販売と製造を分業化する必要性が高まり、Salesco協同組合の設立構想が立ち上がる。
1953:Carl Hansen & Søn、A.P. Stolen、Ry Møbler、Andreas Tuck、Getamaの5社がSalescoに参画。
1954:正式に「Salesco(Sales Cooperative)」として活動を開始。ウェグナー作品の輸出・販売を統括。
1955:CH25、CH30などの椅子シリーズがアメリカ市場で成功を収める。
1956:A.P. Stolen製「ベアチェア(AP19)」がニューヨークの高級家具店で販売され、注目を集める。
1957:Ry Møblerが「RY25サイドボード」シリーズを発表。Salescoの輸出ラインナップに加わる。
1958:Andreas Tuck製のATテーブルシリーズが導入され、ダイニングセットの展開が拡大。
1959:Getamaが「GE290ソファ」および「GE375イージーチェア」を生産。布張り家具分野を強化。
1960:Salescoがロンドンとニューヨークに販路を開拓し、統一カタログを発行。
1961:ウェグナーが「ザ・チェア」シリーズを通じてアメリカ市場で確固たる地位を築く。
1962:組合内での利益分配をめぐる調整問題が発生。ブランド一体性を維持する難しさが浮上。
1963:Henning Foss-Pedersenがマネージング・ディレクターに就任。営業体制を強化。
1964:Salescoがスカンジナビア諸国共同展示会に出展。デンマーク家具の統一的イメージを発信。
1965:組合内部でウェグナー以外のデザイナー導入が検討され始める。ウェグナーが強く反発。
1966:フォス=ペダーセンによる経営干渉が表面化。ウェグナーの不満が増大。
1967:Getamaが一時的にSalescoを離脱。ウェグナーとの関係維持を優先。
1968:取締役会で経営方針をめぐり対立が激化。ウェグナーが決裂を示唆。
1969:ウェグナーが正式にSalescoを離脱。協同組合の活動が停止状態に陥る。
1970:Salescoのロゴから「HW」表記が削除され、「S」マークのみに変更される。
1972:Andreas Tuckが閉鎖。分業体制の崩壊が進行。
1974:A.P. Stolenが倒産。ウェグナーのデザイン供給を失った影響が顕著に表れる。
1975:Carl Hansen & Sønが独自にウェグナー作品の生産継続を決定。Salesco体制からの独立を果たす。
1980:Salescoモデルが学術的に分析され、「協同型デザイン経営」の先駆例として再評価される。
1990年代:デンマーク国内でSalesco関係資料が再発見され、研究が進む。
2000年代:Salesco期のカタログとラベルがコレクター市場で重要資料として扱われる。
2010年代:デンマーク・デザインミュージアムで「Wegner and Salesco」企画展示が開催される。
現在:Salescoの協同組合モデルは、職人技と産業化の架け橋としてデンマーク・モダン史における象徴的存在とされている。

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