ハンス・J・ウェグナー・ミュージアム計画がトゥナーで始動

Cobeによる木造高床建築がウェグナーの哲学を具現化


デンマーク南部トゥナーに、家具デザイナー ハンス・J・ウェグナーに捧げる新たな文化拠点「Hans J. Wegner Museum(ハンス・J・ウェグナー・ミュージアム)」が建設されます。建築設計を担当するのは、コペンハーゲンを拠点とする建築事務所Cobeで、2024年2月の国際コンペで最優秀案に選出されました。

約5,000平方メートルの規模を誇るこのミュージアムは、ウェグナーの生涯と作品を称え、デンマーク・デザインの核心であるクラフトマンシップと誠実な素材表現を建築として具現化します。建設地は、ウェグナーが若き日に木工職人としての修業を積んだトゥナー南東部のヘストホルム。湿地帯の地形に合わせて建物全体を高床構造とし、自然の水流を妨げない設計が採用されています。

この“浮かぶ建築”は、ウェグナーが生涯を通じて追求した「機能性と詩的造形の融合」を建築的に再解釈したものです。Cobeの設計は、15世紀に建てられた農家建築を再利用し、二つの木造ウィングを延長して南端で曲線的に接続。中央に円形の中庭を配し、歴史と現代が共鳴する構成としています。木造フレームと緩やかな勾配屋根が、農村の建築様式と調和しながら、温かみのある建築言語を形成しています。

デンマークには現在、デザインを専門的に扱うミュージアムが二つしか存在せず、本施設はウェグナーの遺産を次世代へと継承する重要な存在となります。ウェグナー(1914–2007)は「椅子の巨匠」と呼ばれ、生涯で約3,000脚の椅子をデザインしました。そのうち約200脚が現在も生産され、代表作のYチェア(CH24)はデンマークデザインの象徴として世界中で愛されています。

新ミュージアムには、常設・企画展示のほか、図書館、ワークショップ、講堂、カフェ、イベントスペースなどが設けられ、年間を通して多様な文化プログラムが展開されます。Cobe創設者のダン・スタバーゴー氏は「ウェグナー・ミュージアムは、デザイナーの彫刻的な作品と地域の文化遺産を結びつける場所です」と語っています。

建築は前後の区別をなくした回遊型の動線を持ち、どの方向から見ても一体として体験できる設計が採用されています。この発想は、椅子の背面に至るまで造形を追求したウェグナーの“全体性”への哲学と通じるものです。高床の下に生まれる空間は屋外展示や休憩スペースとしても活用され、自然と建築、デザインが一体となった体験を提供します。

「Hans J. Wegner Museum」は、デンマークの文化インフラを拡張するだけでなく、トゥナーを新たなデザイン都市として位置づける象徴的な建築です。過去と未来を架橋するこの建築は、ウェグナーの理念を継承し、デンマーク・デザインの真正性を次代へと伝えるランドマークとして期待されています。


ミュージアム情報

所在地:Hostrupvej 4, 6270 Tønder, Denmark
公式サイト:en.museumwegner.dk

開館予定:2026年(正式なオープン時期は後日発表予定)
営業時間(想定):10:00〜17:00
※Museum Sønderjylland – Art Museum in Tønderの運営時間に準じる見込みです。

アクセス方法
トゥナーはデンマーク南部、ユトランド半島西端に位置する都市です。
鉄道:コペンハーゲン中央駅からIC列車でトゥナー駅へ(約4〜5時間)。駅からミュージアムまではバスまたはタクシーで約10分。:E45号線経由でトゥナーまで約4時間半。ミュージアム近隣に駐車場あり。


ハンス・J・ウェグナーとは

ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner, 1914–2007)は20世紀を代表するデンマークの家具デザイナーであり、「椅子の巨匠」として知られています。木工職人としての高い技術と、機能性・構造美・詩的造形を融合させたデザインは、デンマーク・モダンの象徴とされています。代表作には「Yチェア(CH24)」や「ザ・チェア(JH503)」などがあり、現在も多くのメーカーによって製造が続けられています。


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