About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン) / PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1951
Material: Oak, Teak, Beech, Leather, Rattan
Size: W90 × D95 × H101 cm / SH42 cm
Story
ベアチェアは、1951年にハンス・J・ウェグナーがAP Stolen社のためにデザインしたAP19を起点とし、2003年以降はPP MøblerがPP19として受け継いでいる名作です。背後から大きな熊の腕に抱かれるような安心感を与えるその造形は、発表当時の批評家による「熊の腕」という形容に由来しています。以降、この愛称は単なる呼び名ではなく、この椅子の本質を象徴するものとして広く浸透しました。
ウェグナーは椅子を「どこから見ても美しい彫刻」として設計しました。ベアチェアのフォルムは伝統的なウィングバックチェアを現代的に再解釈したもので、背もたれの傾斜やアームのボリュームは、座る人を心地よく支えるよう緻密に計算されています。幅広いアームは肘を置くだけでなく、脚を掛けたり横向きに体を預けたりと、自由で柔らかな着座姿勢を可能にします。これは「椅子は人を制約するものではなく、くつろぎを与えるもの」というウェグナーの思想を体現しています。
内部構造には、ウレタンフォームだけでなく馬毛や麻、コイルスプリングといった天然素材が用いられています。特に背もたれ内部に収められたスプリングは、個々をリネン袋に収めてジュートストラップに縫い付けるという手作業による複雑な工程で作られ、優れた弾力と耐久性を生み出します。この見えない部分にまで妥協を許さない姿勢こそ、ベアチェアの価値を支える職人技の証です。PP Møblerの職人が最低2週間をかけて張り込み作業を行うといわれるほど、その製造は高難度で手間を要します。
AP Stolen社が1977年に閉鎖した後、ベアチェアは長い空白期間を経て、2003年にPP Møblerによって復活しました。PP19として再生産される際、当時からフレーム製造を担っていたPP Møblerは、その技術と経験を活かしながら現代的な改良を加えました。アームの「爪」を一本の無垢材から削り出す仕様や、内部にコールドフォームを組み合わせた構造は、オリジナルの精神を守りつつ耐久性と快適性をさらに高めています。
ベアチェアは単なる椅子を超えた文化的存在でもあります。ニューヨーク近代美術館やデンマーク・デザイン博物館に収蔵されるなど、国際的に芸術作品として認められています。また、ウェグナーが晩年に自身の住まいへ持ち込んだ数少ない家具のひとつであったことは、この椅子が彼自身にとっても最高の座り心地を象徴する存在であったことを示しています。人間工学と彫刻的美しさが融合したこの椅子は、世代を超えて愛され続ける「生きたデザイン」として今日も高い評価を受けています。
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