About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1962
Material: Teak, Upholstery (fabric / leather / vinyl)
Size: W48 × D46 × H75 × SH46 cm
Story
FD198 Dining Chair(Small Dining Chair)は、フィン・ユールがフランス&サンと協業して生み出した代表的な量産モデルの一つです。1962年頃に製造が開始され、デンマーク・モダンの工業化時代を象徴する作品として位置づけられています。
ユールは初期において、ニールス・ヴォッダーのような職人と協働し、芸術的で有機的な椅子を発表しました。しかし、国際市場、特にアメリカ市場での成功を背景に、工業的な製造を前提としたデザインへと舵を切る必要がありました。FD198は、この転換を明確に示すモデルであり、直線的で効率的な構造と、彼の代名詞である「浮遊する座面」の美学を両立させています。
構造面での最大の特徴は、金属ポストを用いた座面支持です。これにより、座面とフレームを視覚的に分離しつつ、量産に適した強度と効率を実現しました。直線的なチーク材フレームとわずかに湾曲した背もたれが、快適性と軽快な印象を与えています。
また、当時の「Small Dining Chair」という呼称は、都市部の限られた住空間に対応しつつ、輸出効率や輸送コスト削減にも寄与しました。コンパクトながらも人間工学的な配慮が施され、長時間の使用でも快適性を損なわない設計が特徴です。
フランス&サンの工場で製造されたFD198は、同社の大量生産体制と輸出戦略の中で重要な役割を担いました。やがて1966年にフランス&サンがCADOへと引き継がれると、このモデルも継続して製造されましたが、1970年代半ばの工場閉鎖とともに生産を終えました。今日では、House of Finn Juhlによる公式復刻ラインには含まれておらず、オリジナルはヴィンテージ家具として高い評価を受けています。
FD198は、ユールの「彫刻的な美学」と「工業的精度」を融合させた稀有な成果であり、彼のキャリア後期を象徴する重要な椅子といえます。