About
Designer: Arne Vodder(アルネ・ヴォダー)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1957
Material: Teak, Brass, Leather/Fabric upholstery
Size: W50 × D52 × H78 × SH45 cm
Story
FD203チェアは、1957年にアルネ・ヴォダーによってデザインされたダイニングチェアであり、デンマーク・モダンの黄金期を代表する作品です。ヴォダーはフィン・ユールに学び、建築的なアプローチと柔らかな有機的曲線を融合させた設計哲学を確立しました。FD203はその「抑えられた洗練」を体現した成果であり、機能性と美しさを同時に実現しています。
最大の特徴は、背もたれを真鍮製のマウントロッドでフレームからわずかに浮かせた懸架構造です。この仕組みにより背もたれは柔軟性を持ち、長時間の使用でも快適さを保ちながら、視覚的には軽快な浮遊感を演出します。真鍮金具は構造を支えるだけでなく、チーク材と対比する装飾的要素としても意図的に表現されており、時間とともに経年変化を楽しむことができます。
フレームには無垢のチーク材が使用され、堅牢でありながら細くテーパーを付けた脚部が軽やかな印象を与えます。座面と背もたれにはフルグレインレザーやツイードが用いられ、素材間のコントラストがデザインを引き立てています。さらに精密なホゾ接ぎによる接合が施され、工業的生産でありながら伝統的職人技の精度を維持しています。
製造はFrance & Daverkosenが担い、後にFrance & Son、さらにCADOへと継承されました。これによりFD203は国際市場で広く流通し、家庭のみならず大使館や企業オフィスなど公的空間でも用いられました。輸送効率を高めるノックダウン構造も採用され、グローバルな物流に対応しつつ高い品質を保っています。
現在もFD203チェアは、アルネ・ヴォダーの代表作として高い評価を受け続けています。機能と構造を融合させた革新的な設計は、普遍的なデンマーク・モダンの美意識を示すものであり、60年以上経過した今日でもなおヴィンテージ市場やデザイン史における基準点として重要な位置を占めています。