About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1958
Material: Solid teak(original)、Oak / Walnut(current)
Size: W 145 × D 53.5 × H 53 cm
Story
FD532は、フィン・ユールが成熟期に到達した造形言語をテーブルという用途に凝縮した作品です。彫刻的でありながら過度に主張しない控えめな佇まいは、ユールが目指した「軽やかさ」と「浮遊感」の表現に直結しています。縁にわずかな立ち上がりを持たせたトレイ状の天板は、物の滑落を抑える実用性とともに、天板が脚部フレームから浮いて見える視覚効果を生み、室内に清澄なリズムを与えます。
テーパーを効かせた細身の脚と、必要最小限のストレッチャー構成は、量塊感を巧みに削ぎ落としながら、ソリッド材の天板を安定して受け止めます。外観は簡潔ですが、接合部には木の収縮・膨張を見越した精緻な仕口が求められ、わずかな誤差が全体の印象を損ねうるため、設計段階から厳密な寸法管理が貫かれています。結果として、線は細く、構造は強いという相反を高い職能で統合しています。
素材選択は、当初のソリッド・チークが象徴的です。深い色調と重厚な木理は、天板の面取りやエッジの陰影を豊かに描き出し、使用に伴う経年変化が美しさを増幅します。現行の復刻ではオークやウォールナットも用いられ、より幅広い空間に呼応するバリエーションが整えられています。どの材でも共通するのは、面・線・角の取り回しが繊細で、触感にまで配慮が及んでいる点です。
製造背景として、FD532は輸出を牽引したFrance & Daverkosen/France & Sonの体制下で量産に耐える精度と仕上げを獲得しました。ユールの彫刻性を維持しつつ工業生産へ橋渡しするという課題に対して、本作は「美と規格」の均衡点を示します。後年の再生産においても、この均衡は重んじられ、緻密な公差管理と伝統的な木工技法の両立が継承されています。
用途面では、FD532は長尺のコーヒーテーブルとしてソファ前での使用を想定しつつ、視覚的ノイズを抑える設計によって周囲の家具—とりわけ彫刻的な椅子—を際立たせます。テーブル自体が主役を奪わず、空間の秩序と動線の柔軟性を高めることに長けており、住空間からパブリックまで多様な場で活用が期待されます。
総じてFD532は、ユールの造形哲学(要素の分節、浮遊感の演出、人体と空間への配慮)と、輸出期デンマーク家具の製造知を結びつけた指標作です。控えめであることが美点となる稀有なテーブルとして、今日においても静かな存在感で空間を整えます。