About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Søn)
Year: 1957
Material: Teak, Rattan
Size: W79 × D46 × H51 cm
Story
ミネルヴァ・テーブルは、1950年代から60年代にかけて展開された「デンマーク・モダン黄金期」を象徴する作品のひとつです。デザインを手掛けたのは建築的な構成力を持つデュオ、ピーター・ヴィットとオルラ・モルガード=ニールセンであり、製造を担ったのは産業的イノベーションを推進したフランス&サン社(France & Søn)でした。
このシリーズは、ソファやデイベッド、テーブルを含む統合的なモジュラー家具群として構想されました。その目的は、変化する生活環境に対応する柔軟な空間設計を実現することにあり、特にサイドテーブルはシリーズの思想を最も凝縮した存在として知られています。
構造は二段式の天板で構成され、上段がメインの作業面、下段が収納やディスプレイスペースとして機能します。脚部は先端に向かって細くなる円錐形で、軽やかで整然とした印象を与えます。下段には籐(ラタン)が編み込まれ、チークの滑らかさと籐の透過性が美しいコントラストを生み出しています。この素材の選択は、視覚的な軽快さと通気性を両立させる巧みな設計判断でした。
さらに、このテーブルにはノックダウン構造(分解式)が採用され、輸出時の輸送効率を飛躍的に高めました。単なる工芸的作品ではなく、製造から流通に至るまでを包括的にデザインした成果であり、まさに「家具のシステムデザイン」を先駆けて体現した作品といえます。
シリーズ名「ミネルヴァ」は、ローマ神話における知恵と工芸の女神に由来します。知性と技巧、そして芸術性を象徴するこの名称は、製品が持つ哲学的・文化的な奥行きを端的に示しています。その洗練された響きは、当時のヨーロッパやアメリカ市場において高い共感を呼び、デンマーク・モダンが単なる実用品を超えた文化的価値を持つことを広く印象づけました。
ミネルヴァ・テーブルは、伝統的な職人技と産業的生産を見事に融合させた「矛盾の統合」の成果です。技巧、機能、そして商業的成功の三要素が完璧にバランスを保ちながら共存しており、その美学は今日に至るまで、北欧デザイン史の中で普遍的な価値を保ち続けています。