About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1946
Material: Teak, Rosewood, Danish Paper Cord
Size: W49 × D48 × H80 × SH45 cm
Story
1946年に発表された「Model No.1 チェア」は、デンマークの家具デザイナー兼職人であるニールス・オットー・モラーが、自身の設立したJ.L.モラー社の理念を最初に具現化した作品です。モラーは19歳でキャビネットメーカーとしての訓練を受け、オーフスのデザインアカデミーで学んだ後、1944年に同社を創業しました。彼の初期作品であるNo.1は、後の全シリーズに通じる美学と構造哲学の原点といえます。
この椅子は、過剰な装飾を排除した機能主義的デザインと、人間工学的な曲線美を融合させています。背もたれと脚の接合部には緩やかなカーブが施され、座る人の体に自然に寄り添うよう設計されています。無垢のチークやローズウッドを削り出して形成されたラインは、素材そのものの強度と温かみを最大限に活かすための結果であり、人工的な加工に頼らないモラー独自の美学を示しています。
構造的には、脚と座枠の接合部に伝統的なほぞ継ぎ技術が用いられています。この手法は、ネジやダボよりも高い耐久性を生み出し、経年変化による緩みを防ぐ役割を果たします。装飾を極限まで減らした設計だからこそ、見えない部分の精度と構造的完全性が作品全体の品質を左右します。モラーはその点に妥協せず、まさに「構造がデザインである」という哲学を体現しました。
座面にはデンマークン・ペーパーコードが採用され、手作業で丁寧に織り上げられています。弾力と通気性を兼ね備えたこの素材は、使用するほどに体に馴染み、経年変化による風合いを楽しむことができます。特に非ラッカー仕上げのコードは、J.L.モラー社の伝統的な手織り技術を象徴する要素として知られています。
J.L.モラー社は創業当初から「原木から完成品まで一貫生産する」体制を採っており、現在も創業地オーフスの工場でその伝統を守り続けています。モラーの孫娘キーステン・モラー氏が経営を引き継ぎ、1946年に確立された設計基準を維持しています。Model No.1は、その精神的起点として、今日でもブランドの象徴的存在です。