About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1950s
Material: Brazilian Rosewood
Size: W 210 × D 48 × H 80 cm
Story
Model 20 サイドボードは、デンマーク・モダン黄金期の中心人物ニールス・オットー・モラーによって設計され、自身の工房であるJ.L. Møllers Møbelfabrikにより製造されました。モラーが手掛けた数多くの椅子作品と同様に、このサイドボードにも彼の職人としての訓練と審美的哲学が明確に反映されています。華美な装飾を排し、素材の自然な美しさと構造の精緻さを調和させたその造形は、デンマークデザインの本質を体現しています。
キャビネット本体の重厚さを、テーパーのついた脚部によって軽やかに支えるデザインは、ミッドセンチュリー期の課題であった「視覚的軽快さ」と「構造的安定性」の両立を見事に実現しています。使用されたブラジリアン・ローズウッドは、深みのある色調と劇的な木目を持ち、ブックマッチド・ベニヤによる左右対称の文様が、キャビネット全面を一枚の絵画のように見せています。この表現力豊かな木材の扱い方に、モラーの素材への敬意と熟練した職人技の融合が見て取れます。
スライディングドアは、空間効率を重視した機構であり、扉には突起のない統合型ハンドルが掘り込まれています。この細部まで整えられた滑らかな面構成は、モラーの「洗練されたシンプルさ」を象徴する要素です。内部には組み継ぎ(Dovetail)によるトレイが備えられ、見えない部分にも伝統的な接合技術が惜しみなく使われています。モラーは単なるデザイナーではなく、訓練を受けたキャビネットメーカーであったため、強度や精度に対する意識が家具全体に行き渡っています。
J.L. Møller Møbelfabrikの製造体制も、この品質を支える重要な要素です。同社は創業以来「アセンブリーラインを採用しない」方針を貫き、熟練した職人が木材の選定から仕上げまで一貫して担当しています。工場の拡張や国際輸出の拡大が進んでも、職人中心の生産哲学は変わらず維持されました。モラーの家族による継承によって、この伝統は今日まで続いています。
Model 20 サイドボードは、視覚的洗練と構造的堅牢さを兼ね備えたモラーの理念を最も純粋に体現する作品のひとつです。デンマーク家具史における重要な転換点を示し、職人技とデザインの統合がいかに普遍的な価値を持ちうるかを証明する存在として、今なお高い評価を受けています。