About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1976
Material: Oak, Beech, Teak, Rosewood, Paper Cord
Size: W56 × D53 × H78 × SH44 × AH68 cm
Story
Model 67 Armchairは、ニールス・オットー・モラーが1976年に発表した、彼の設計思想の集大成ともいえる作品です。モラーは1939年にキャビネットメーカーとしての訓練を終え、オーフスのデザイン学校で学んだのち、1944年に自身の工房であるJ.L. Møllers Møbelfabrikを創設しました。デザインから製造までを一貫して管理する体制を築き、設計意図と職人技を完全に統合した家具づくりを追求しました。
モラーの哲学は、素材の誠実な使用と機能美にあります。Model 67においては、有機的に成形された無垢材のフレームラインが、滑らかで継ぎ目のない連続性を持ちながら構築されています。脚部から背もたれ、肘掛へと自然に流れるような造形は、視覚的な美しさだけでなく、身体をやさしく支える人間工学的合理性を兼ね備えています。
肘掛の高さは68cmに設定され、標準的なダイニングテーブル下に収まるよう設計されています。この寸法は実用性と造形美の両立を図るものであり、Model 67が単なるラウンジチェアではなく、日常的な使用を前提とした機能的デザインであることを示しています。
素材には、オークやブナを中心に、チークやローズウッドなども採用されました。仕上げはオイル、ソープ、ホワイトオイル、ラッカー、ブラックステインなど多様であり、使用者の好みに応じて自然な経年変化を楽しむことができます。座面は伝統的なペーパーコード張りが基本で、J.L.モラー特有の緻密で美しい手織りが施されています。
J.L.モラー社の椅子に共通する特徴であるX字型ホゾ接ぎ構造は、目に見えない内部の強度を支える技術的核心です。細い部材でも高い剛性を実現するこの構造は、軽やかな外観と確かな耐久性を両立させる重要な要素です。また、ソリッドウッドの曲線形成には蒸気曲木や精密な削り出し加工が用いられ、素材の自然な美しさと強度を最大限に引き出しています。
Model 67が発表された1970年代後半は、デザイン界がポスト・ミッドセンチュリーの方向性を模索していた時期でした。その中でモラーは一切の流行に左右されることなく、普遍的な美と実用性の融合を追求し続けました。本作はその信念を最も純粋な形で体現しており、J.L.モラーの職人精神と設計思想の頂点を示しています。
今日においても、Model 67はデンマーク家具の理想形の一つとして高く評価されており、その完成度と静謐な存在感は、半世紀を経た現在も色あせることがありません。モラーが生涯をかけて築いた「妥協なきクラフトマンシップ」の象徴として、世界中のデザイン愛好家や建築家に受け継がれています。