About
Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1951
Material: Teak, Oak, Rosewood, Danish Paper Cord
Size: W49 × D51 × H79 × SH44 cm
Story
Model 71 ダイニングチェアは、ニールス・オットー・モラーが1951年に設計し、自身の工房であるJ.L. モラーによって製造された初期の名作です。モラーは1939年に指物師としての徒弟修行を終えた後、オーフスのデンマークデザインスクールで学び、伝統工芸の精神を近代的な家具デザインへと昇華させました。その成果が、彼が提唱した「オーガニック・ミニマリズム」という理念に集約されています。
Model 71は、視覚的な軽やかさと構造的な強度の両立を実現した革新的な作品でした。最大の特徴は、脚間を補強する貫(ストレッチャー)を廃した設計にあります。通常、貫は椅子の横揺れを防ぐために不可欠とされますが、モラーは強力な差し込み式接合とインターロッキング構造を採用することで、この要素を取り除くことに成功しました。その結果、椅子は軽快で清掃性が高く、空間に溶け込むような佇まいを獲得しています。
背もたれは無垢材から精緻に削り出され、曲木を用いずに人間工学的なカーブを形成しています。身体の自然な姿勢に沿うよう設計された背面と、適度な弾力を持つペーパーコード座面が、長時間の着座にも快適さをもたらします。ペーパーコードは約130メートルに及ぶ一本の連続繊維で手織りされ、職人による張りの均一さが製品の寿命を支えています。
素材面では、チーク、オーク、ローズウッドといった厳選された無垢材を使用し、木目の方向や色調を見極めながら手作業で切断・接着・研磨が行われます。特にチーク材は、油分を多く含む緩成長のビルマ産チークを採用し、深みのある色艶と耐久性を備えています。最終研磨は機械を用いず、職人の手で丁寧に行われることで、木材の質感を最大限に引き出しています。
このモデルは、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが設計した「ハンナ・ハウス」の家具として採用されたことでも知られています。ライトの有機的建築理念と、モラーの構造的純度・素材への敬意が共鳴した結果でした。デザインと建築が響き合う稀有な事例として、Model 71は国際的評価を確立しました。
今日でもJ.L. モラー社によって生産が続けられ、非組立ライン方式を守りながら、一脚ずつ熟練職人の手で仕上げられています。Model 71は、70年以上経った今も「家宝級の品質(heirloom-quality)」として評価され、時代を超えて愛され続けるデンマークデザインの象徴です。