Model 83 Dining Chair | ダイニングチェア


About

Designer: Niels Otto Møller(ニールス・オットー・モラー)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
Year: 1974
Material: Teak / Walnut / Rosewood / Danish Paper Cord
Size: W50 × D51 × H80 × SH44 cm


Story

Model 83 ダイニングチェアは、デンマーク家具デザインの黄金期において、職人技と機能美が完全に融合した作品として位置づけられます。デザイナーであるニールス・オットー・モラーは、1939年に指物師として修業を終えたのち、オーフスのデザイン学校で理論を学び、1944年に自身の工房 <a href=”https://denmark-design.com/jl-moller/”>J.L. Møller Møbelfabrik</a> を設立しました。Model 83はその集大成とも言える作品であり、彼の美学「温かいミニマリズム」を体現しています。

背面の彫刻的なカーブは、視覚的な優雅さと人間工学的快適性を両立させています。モラーは、椅子が空間の中心に置かれる状況を意識し、背面のラインを特に重視しました。その結果、背中の緩やかな曲線が美しく光を受けるたびに、木材の質感と構造的緊張が際立ちます。視覚的には軽やかでありながら、強度と安定性が緻密に計算されており、長年の使用にも耐える耐久性を備えています。

構造的には、伝統的な枘接ぎ(Mortise and Tenon)や通し枘接ぎ(Interlocking Dowel and Tenon)が採用されており、木材の自然な動きに呼応する柔軟な構造が確立されています。工房ではアセンブリーラインを使用せず、各工程を専門職人が手作業で担当します。最終仕上げも手磨きで行われ、工業製品にはない温かみと精度が共存しています。

座面にはデンマーク製ペーパーコード(papirsnor)が伝統的に用いられます。この素材は軽量かつ通気性に優れ、熟練職人によって一脚ずつ手織りされています。モラーはこの素材を「実用性と美の融合」として評価し、戦時期に生まれた代替素材を高級デザインの文脈に昇華させました。手織りの座面は、長期使用後も張り替えが可能であり、世代を超えて継承できる構造的持続性を備えています。

1974年に完成形として発表されたModel 83は、1960年代に試作・限定製造されたプロトタイプを基に進化したと考えられます。J.L.モラー社が品質面で最高水準に達した時期の作品であり、その完成度はデンマーク家具産業賞(1981年)に象徴される「伝統と現代性の融合」を見事に示しています。モラー没後も工房は家族によって継承され、今日に至るまでModel 83は「妥協なきクラフトマンシップ」の象徴として生産が続けられています。

この椅子は、素材、構造、造形の三要素が緊密に結びついた、デンマークモダンの理想形の一つです。空間の中心に静かに存在しながら、その背後にある職人の精神と時間を伝える永続的な価値を持っています。

PAGE TOP