Poul Kjaerholm | ポール・ケアホルム


Story

ポール・ケアホルム(Poul Kjærholm, 1929-1980)は、木製家具が主流だった時代に、金属(とりわけスチール)を積極的に用いて独自の美学を切り拓いた異色のデザイナーです。デンマークに根づくクラフトマンシップの精神と、バウハウスに連なる合理主義・機能主義の思想を背景に、素材と構造を徹底的に吟味し、妥協のない洗練を実現しました。

彼は若くして指物師としての実践的訓練を受け、コペンハーゲン美術工芸学校で家具デザインを学びました。同校で出会ったハンス・J・ウェグナーの「不要を削ぎ落とす」設計思想は、ケアホルムの中で「本質だけを残す」デザイン哲学として結晶します。ウェグナーの事務所での実務、フリッツ・ハンセン社での経験を経て、1955年にE. コールド・クリステンセン社と協業を開始すると、PKナンバーで体系化された代表作群が次々に生まれました。彼は自らを「家具建築家(furniture architect)」と見なし、家具単体ではなく建築空間との関係性の中で作品を構想しました。

ケアホルムの核心は、素材の本質と構造の論理を最大限に引き出す姿勢にあります。スチールの張力や精度を核に、木材・石・ガラス・革・籐・キャンバスといった異素材を組み合わせ、それぞれの特性を際立たせる「素材の対話」を設計しました。家具は物理的機能にとどまらず心理的機能も担うべきだという考えのもと、要素が独立しながらも全体として完璧に統合される状態を目指しています。リートフェルトやミース・ファン・デル・ローエの系譜に学びつつ、ケアホルムは簡潔で普遍性の高い独自の言語を確立しました。

PK25、PK22、PK24、PK61、PK54、PK31、PK33、PK91などの作品は、スチールを「冷たさ」ではなく「光と緊張の詩学」として再定義し、工業製品と手仕事の境界を溶かしました。各部の接合や金具を隠さずに見せる構造の明晰さは、空間の余白を際立たせ、静謐な存在感を生み出します。彼は母校や王立芸術アカデミーで教育にも尽力し、思想と技術を後進へと継承しました。ミラノ・トリエンナーレでの受賞や国際美術館での収蔵が示すとおり、その作品は時代性を超えて評価され続けています。


About

Year: 1929-1980
Place: Østervrå(オスターヴロー)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)Kold Christensen(E・コールド・クリステンセン)Rud. Rasmussen(ルッド・ラスムッセン)PP Møbler(PPモブラー)


History

1929:デンマーク・オスターヴローに生まれる。
1940:地元で木工の基礎を学び、指物の素養を培う。
1944:指物師として徒弟修業を開始し、精密な手仕事を体得する。
1950:コペンハーゲン美術工芸学校・家具デザイン科に入学。
1952:卒業制作としてPK25(エレメントチェア)を発表。
1953:フリッツ・ハンセン社で短期間勤務し、製造現場を経験。
1954:ウェグナー事務所でアシスタントを務め、構造簡素化の思想を深化。
1955:E. コールド・クリステンセン社との協業を開始。
1956:PK22ラウンジチェアを発表、国際的な注目を集める。
1957:ミラノ・トリエンナーレで展示デザインにより評価(受賞)。
1958:PK22がルニング賞を受賞。
1959:王立美術院の助手に就任、教育活動を本格化。
1960:ミラノ・トリエンナーレでデンマーク館の展示デザインがグランプリ。
1961:PK91フォールディングスツールを発表、古典形式を現代化。
1965:「Structures」展の文脈と響き合うPK24を発表、素材対話を極める。
1967:デンマークID賞を受賞、プロダクトとしての完成度が認められる。
1970:建築的思考を強め、空間と家具の統合を探究。
1972:PK27に関連する成果が評価され、ID-Prizeの文脈で言及される。
1973:妻ハネ・ケアホルムと自邸「ヴィラ・ケアホルム」を完成。
1974:石や大理石を用いるテーブル体系の拡張を進める。
1976:王立美術院教授に就任、後進育成に注力。
1978:代表作群の再検討と体系化を進める。
1980:ヒレレズで逝去、51歳。
1982:ケアホルム・コレクションの製造・販売権がフリッツ・ハンセンへ委譲。
1985:MoMA所蔵の文脈で再評価が進む。
1990:V&Aなど主要美術館での展示・収蔵が広がる。
2004:遺族によりケアホルム・プロダクションが一部製品の生産を継承。
2010:復刻プロジェクトが国際市場で広く展開される。
現在:ミュージアム収蔵と現行生産を通じて普遍的価値が更新され続けている。


Furniture

・PK0 Lounge Chair | PK0ラウンジチェア
・PK25 Lounge Chair | PK25エレメントチェア
・PK22 Lounge Chair | PK22ラウンジチェア
・PK24 Chaise Longue | PK24カンチレバーチェア
・PK20 Lounge Chair | PK20ラウンジチェア
・PK27 Armchair | PK27アームチェア
・PK31 Sofa | PK31ソファ
・PK9 Chair | PK9チェア
・PK11 Armchair | PK11アームチェア
・PK33 Stool | PK33スツール
・PK91 Folding Stool | PK91フォールディングスツール
・PK91A Folding Stool | PK91Aフォールディングスツール
・PK61 Coffee Table | PK61コーヒーテーブル
・PK54 Dining Table | PK54ダイニングテーブル
・PK55 Dining Table | PK55ダイニングテーブル
・PK60 Dining Table | PK60ダイニングテーブル
・PK62 Side Table | PK62サイドテーブル
・PK65 Coffee Table | PK65コーヒーテーブル
・PK71 Nesting Tables | PK71ネスティングテーブル
・PK80 Daybed | PK80デイベッド
・PK81 Daybed | PK81デイベッド


参考文献:THE FURNITURE OF POUL KJAERHOLM CATALOGUE RAISONNEPOUL KJAERHOLM FURNITURE ARCHITECTPoul KjærholmHÅNDVÆRKOGLIVSVÆRKRODFAESTET流れがわかる! デンマーク家具のデザイン史

 

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