About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1978
Material: Oak, Ash, Beech, Paper cord
Size: W70 × D62–63 × H76 cm / SH38 cm / AH66 cm
Story
PP112イージーチェアは、ハンス・J・ウェグナーが1978年にPPモブラーのためにデザインした作品です。その構造は、中国の伝統的な「チャイニーズチェア」と、イギリスの「ウィンザーチェア」という二つの異なる椅子の要素を融合させた、いわゆる「ハイブリッドデザイン」として知られています。流れるようなアームのフォルムと、背もたれを形成する垂直のスポークによって、軽やかで開放感のある造形を実現しています。
ウェグナーは若い頃から中国の明代家具に強く影響を受けており、1940年代からチャイニーズチェアのシリーズを手がけてきました。一方、英国のウィンザーチェアは素朴で民主的な家具として知られ、その合理的な構造にウェグナーは魅了されました。PP112は、二つの典型を現代的に蒸留し、シンプルかつ洗練されたフォルムへと昇華させた作品です。
この椅子には個人的な背景も込められています。PPモブラーの共同創設者であったアイナー・ペダーセンが特に愛していたウェグナー作品が「チャイニーズチェア」でした。そのため、PP112は友情への賛辞としての意味も持ち、ウェグナーとPPモブラーの長年の協働関係を象徴する存在となっています。
素材には北欧産のオーク、アッシュ、ビーチといった無垢材が用いられ、座面は職人による手編みのペーパーコードで仕上げられています。ソープ仕上げやオイル仕上げといった伝統的な表面処理は、素材の質感を活かし、時間とともに経年変化を楽しめる仕様です。こうした要素は、ウェグナーが生涯を通じて追求した「構造の誠実さ」と「素材の正直さ」を体現しています。
PP112は、パパベアチェアやウィングチェアといった布張りの名作と並ぶ一方で、木工そのものの美しさに焦点を当てた静かな傑作といえます。大量生産には適さない職人技集約型の椅子であり、PPモブラーの理念と技術がなければ生まれなかった作品です。