PP201・PP203 The First Chair | ファーストチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1969
Material: Oak, Ash, Wenge, Paper cord, Fabric, Leather
Size: W58 × D49 × H70 cm / SH43 cm


Story

PP201・PP203「ファーストチェア」は、1969年に誕生したハンス・J・ウェグナーのキャリアを象徴する椅子のひとつです。ウェグナーは「椅子は誰かが座って初めて椅子である」という言葉に示されるように、椅子の本質を徹底的に追求したデザイナーでした。そのアプローチは、視覚的な美しさだけでなく、人が座ることで初めて完成する「機能美」に深く根ざしていました。

 

この椅子の構想は、彼が長年探求してきた中国椅子の構造と、PP701「ミニマルチェア」に代表される洗練された美学の融合にあります。下部フレームは中国椅子の堅牢な構造を踏襲しつつ、背もたれは有機的で彫刻的な曲線を描き、ミニマルな感覚を漂わせています。これは単なる過去作の引用ではなく、既存の要素を分解・再構築し、新しい表現を生み出す「進化のプロセス」としてのデザインでした。

 

「ファーストチェア」はまた、PPモブラーとの関係においても重要な意味を持っています。PPモブラーは当時、他社の下請け生産が中心でしたが、この椅子の製作をきっかけに、自社製品を展開する独立した家具メーカーへと舵を切りました。その過程でウェグナーは同社の新しいロゴまでデザインし、製品とブランドの双方に深く関わるようになります。まさに「ファーストチェア」は、ウェグナーとPPモブラー双方にとっての“第一歩”を象徴していたのです。

 

さらに注目すべきは、職人との共創のエピソードです。PPモブラーの熟練職人エイナー・ペデルセンは、この椅子の背もたれと脚の造形に強く魅了され、特にPP203の生産を熱心に推しました。結果として1969年、PP203が最初に市場に送り出されます。この逸話は、ウェグナーのデザインが単なる図面上の理想ではなく、職人の審美眼と技術的判断によって現実のものとなったことを示しています。

 

素材の選択にもウェグナーの哲学が表れています。アームと背もたれは蒸気曲げによるソリッド材と削り出し材を組み合わせ、接合部にはウェンゲ材をあえて用いることで木目の不均一を解決しつつ、意匠的なアクセントを加えています。PP201のペーパーコードは高い耐久性と通気性を持ち、職人が均一な張力で織り上げることで座り心地と美観を両立させています。対してPP203は、ファブリックやレザー張りを選択でき、快適性と多様なインテリア適応力を実現しています。

 

こうして生まれた「ファーストチェア」は、ウェグナーのデザイン哲学の結晶であり、PPモブラーのブランド形成の起点でもありました。今日では美術館のコレクションや国際的展示会でも紹介され、ヴィンテージ市場でもコレクターズアイテムとして高い評価を受けています。その存在は、機能と美の両立を追い求めたデザイナーと職人の共鳴が、いかに普遍的な価値を持ち得るかを物語っています。

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