Story
ヴィゴ・ロロプ(1903–1971)は、20世紀デンマーク美術における自然主義の再興を担った画家です。彼はシェラン島北西部のオズヘレズ地方を拠点とする芸術家共同体「オズヘレズ・ペインターズ」の中心人物であり、その活動を通じてデンマークの風景画に新たな息吹を吹き込みました。
初期のロロプは、人物画を中心に暗く沈んだ色調で描き、同時代の批評家から「モルケマルネ(暗い画家たち)」の一員と呼ばれました。しかし、フランスでの印象派研究を契機に作風は大きく変化し、明るい光と鮮やかな色彩を取り込んだ風景画へと移行していきました。この変遷は彼の個人的探求であると同時に、オズヘレズ・ペインターズ全体の方向性を象徴するものでした。
1937年に画家エレン・クラウゼと結婚したことは、彼の芸術に決定的な影響を与えました。二人は互いにインスピレーションを与え合い、家庭生活や身近な人物を題材とする作品を多数残しました。ロロプが描いた妻の肖像は、デンマーク国立美術館にも収蔵されており、親密な人間描写と公的美術史との接点を示しています。
また、彼は1942年から「コーナー・アーティスト協会」の会員として活動し、地方の芸術活動を首都コペンハーゲンへとつなぐ重要な役割を担いました。自然主義的表現を基盤としつつ、印象派や点描主義の技法を取り入れた彼の作品は、デンマークにおける風景画の伝統を近代的に再解釈したものと評価されています。
晩年はオズヘレズの農家に定住し、その地の風景を描き続けました。光と影の変化を巧みに捉えた作品群は、自然と人間の生活が密接に結びついたデンマークの美術文化を体現するものであり、今日に至るまで高い評価を受け続けています。
About
Year:1903 – 1971
Place:Kalundborg(カルンドボー) – Odsherred(オズヘレズ)
Museum:Statens Museum for Kunst(デンマーク国立美術館)、Odsherreds Kunstmuseum(オズヘレズ美術館)
History
1903:デンマーク・カルンドボーに生まれる
1927:オズヘレズ地方のコーロプ・バッケルに移住、オズヘレズ・ペインターズに参加
1928:『芸術家たちの秋の展覧会(Kunstnernes Efterårsudstilling)』にてデビュー
1930:王立デンマーク美術アカデミーを卒業
1937:画家エレン・クラウゼと結婚、共同生活と制作を開始
1940:人物画から風景画へと主題を拡大
1942:コーナー・アーティスト協会の会員となる
1948:妻を描いた『Syende dame. Ellen Rørup』を制作、後にデンマーク国立美術館に収蔵
1950:妻と共にオーセンに農家を購入、以後生涯を同地で過ごす
1967:『Rødvinsselskabet(赤ワイン・パーティー)』を制作
1971:逝去
Works
・Syende dame. Ellen Rørup | 縫い物をする女性 エレン・ロロプ
・Figur i interiør | 室内の人物像
・Sejerøbugten | セイエレ湾
・Rødvinsselskabet | 赤ワイン・パーティー
・Interieur with a naked lady | 裸婦のいる室内
・Woman at a red coffetable | 赤いコーヒーテーブルの女性
・Interior with young woman | 若い女性のいる室内
・Udsigt over Fårevejle | フォーレヴァイレの眺め
・Mod Kolås-skoven, Vejrhøj | ヴァイアホイの森へ
・Portrait of Ellen Krause | エレン・クラウゼの肖像
・Children playing in the garden | 庭で遊ぶ子供たち
・Still life with flowers | 花の静物
・Still life with fruits | 果物の静物
・Landscape from Odsherred | オズヘレズの風景
・View of the fields | 野原の眺め
・Atelier interior | アトリエの室内
・Seated woman in blue dress | 青いドレスの女性
・Evening over Odsherred | オズヘレズの夕景
・Family at the table | テーブルに集う家族
・Coastal view from Sjælland | シェラン島の海岸風景