About
Designer: Ole Wanscher(オーレ・ヴァンシャー)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1951
Material: Oak, Teak, Mahogany, Wool, Leather
Size: W 68 × D 72 × H 78 × SH 42 cm
Story
FD107チェアは、オーレ・ヴァンシャーが1951年にFrance & Daverkosen(後のFrance & Søn)のためにデザインしたイージーチェアです。ヴァンシャーは、師コーア・クリントから受け継いだ古典主義の理念を基盤としつつ、戦後の「デザイン・フォー・エブリワン」の潮流を背景に、高級キャビネットメーカーとの一品製作から、より広い市場に向けた量産家具へと歩みを進めました。FD107は、この移行期における象徴的な成果物です。
構造の最大の特徴は、当時France & Daverkosenが国際市場を意識して推進したノックダウン構造の採用にあります。部材を分解して梱包できる仕組みは輸送効率を大幅に高め、また使用に伴う緩みが発生した場合にユーザー自身が再締め付け可能とすることで、長期的な耐久性を保証しました。これは「数百年後にも生き続ける椅子」というヴァンシャーの理念を、量産家具の領域で実現する技術的革新でした。
アームレストは細く湾曲し、先端で優雅に立ち上がる造形を持ちます。スリムなプロポーションと骨太な骨格を兼ね備えたその姿は、建築的アプローチを受け継いだヴァンシャーの設計思想を如実に示しています。オーク、チーク、マホガニーといった素材を用い、製造時期により異なる樹種が選ばれましたが、いずれも耐久性と美観を両立する高品質な木材でした。
クッションは本体フレームから独立して製造され、ウールやレザーが用いられました。これはFrance & Sønの量産戦略を反映した合理的な手法であり、軽量化と輸送効率を実現しました。同時代の籐張り仕様の椅子とも関連し、ヴァンシャーが世界の伝統様式から得た着想を工業化の枠組みに取り込んだ姿勢を感じさせます。
FD107は、その後の代表作であるFD169「Senator」シリーズの前身とも位置づけられ、伝統的な美意識と産業的合理性を見事に統合した先駆的な作品として評価されています。今日に至るまで、その堅牢性とエレガンスは普遍的な価値を保ち続けています。