About
Designer: Ole Wanscher(オーレ・ヴァンシャー)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1951
Material: Teak, Beech
Size: W 62–73 × D 70–77 × H 80 × SH 40 cm
Story
オーレ・ヴァンシャーが1951年にデザインしたFD110ロッキングチェアは、デンマーク・ミッドセンチュリーデザインの発展において重要な転換点を示す作品です。彼の家具哲学は「家具を建築の一部とみなす」という厳格な考えに基づいており、流行に左右されない普遍的な造形を追求しました。FD110においては、華奢でありながら強靭なソリッドフレームがその思想を体現しています。
フレームには主にチーク材が用いられました。チークは耐久性や耐湿性に優れるだけでなく、長期使用による経年変化の美しさも兼ね備えています。France & Daverkosenはこの難加工材を工業的規模で扱う技術を確立し、輸出市場に適応した高精度の量産家具を生み出しました。さらに稀少例として、ブナ材を使用したバリエーションも確認されています。
ロッキングチェア特有の動的負荷に耐えるため、FD110の接合部は緻密に設計されました。伝統的なホゾ継ぎやダボ継ぎを基盤としつつ、分解可能なノックダウン構造を採用している点は特筆されます。これにより輸送効率が向上し、デンマーク家具が世界市場へ進出するための基盤を築きました。
製造はFrance & Daverkosenから始まり、1957年以降はFrance & Son、1960年代半ばからはCADOへと継承されました。これらの工房の変遷は、デンマーク家具産業の工業化と企業統合の歴史そのものを映し出しています。ラベルや刻印の変化は、製造年代を特定する重要な指標として知られています。
FD110ロッキングチェアは、クラシカルな美学と産業的実用性の融合を象徴する作品です。華奢に見える構造の中に高い剛性を備え、輸出志向の設計思想を備えたこの椅子は、ヴァンシャーの普遍的なデザイン理念を国際市場に伝える代表作のひとつとなりました。